この日から10日間、連日ハードな日程が続いた。初めは手術室で清潔と不潔の区別も付かず、服部先生には何度も「ばかやろう」をもらった。手洗い、手袋のはめ方、手術着の着方から先生に教わった。あとは言葉が通じないため現地スタッフを見て、何が何処にあるか、何をするかを観察して真似ることから始めた。余計なことをして現地の看護師にもよく怒られた。何も出来ないことは初めから百も承知で、それでも自分に出来る最大限を尽くそうと決めて10日間を過ごした。私たちは素晴らしく衛生的で物質的に恵まれた環境で生きている。ベトナムでの活動を通して身に染みてそう感じる。私たちは有り余る程に恵まれているが、すべてを自分のために囲い込んでいる。そのうちの一握りでも、持たない者に分け与えることができるだろうか。術後に患者さんが見せたあの最高の笑顔は、消費してしまう物質とは比較できない。彼らの眼に取り戻された光は灯り続けて、私たちはあの笑顔を忘れることはできない。限られた物資、言葉も通じず誰も何をしたらいいかなんて教えてくれない、そんな状況に適応していくことで、すべてが整った生活の中で埋もれていた新しい自分の能力や可能性みたいなものが現れてくる。「Please come back to Vietnam.」ベトナム人医師で服部先生のパートナーとして地方をまわるホン先生に返した「Maybe」は実現できるだろうか。